繁俊の面白い「歌舞伎講話」①

繁俊が書いた「歌舞伎講話」(昭和22年発行)は、とても面白い本です。戦後間もない頃の粗悪な紙に、ペラペラの表紙ですが、これが案外軽くて、読んでいて疲れないという良さもあります。

繁俊の得意の歌舞伎概説が三分の一、歌舞伎作者に関する話が三分の二の、二本立てなのですが、特にこの、歌舞伎作者についての様々な解説はこれ以上なく詳しく、わかりやすい、どんどん先が読みたくなる面白さです。
考えてみれば、最後の歌舞伎作者、江戸歌舞伎の大問屋、といわれた黙阿弥が亡くなり、家を継いだ糸女のところに養嗣子として入った繁俊は、糸女はじめ、黙阿弥の高弟で「め組の喧嘩」を書いた竹柴其水など、直接その時代の作者のことを知っている人たちと密接に付き合い、ヒアリングしているし、自身も半分足をつっこみかけた世界ですから、繁俊以上に狂言作者を解説できる人はいないかもしれません。
繁俊の著作権は最近切れたので、こういう本をぜひ出版社の方々に発掘していただき、昨年出版されていた「歌舞伎十八番」のように、復刻版を出していただきたいものです。引用や、参考文献として利用するだけではもったいない濃い内容です。
たとえば、狂言作者を志望してくるのはどんな人たちだったのか、芝居小屋の中でどんな位置だったのか、立作者と、二枚目三枚目作者と、狂言方との仕事内容の違いや、当時の稽古の様子、初日はどんなふうで、役者さんとの関係はどうだったか、興行にどのくらい責任があったか、、、、などなどここが知りたかった、というところをちゃんと解説してくれています。あいまいなところには触れないでおこう、という感じがありません。そして繁俊の文章はいつも飾らず、実際に対面して話をきいているかのような、親しみやすさがあり、なかなか洒落ているところもあります。次回、少し中身を引用してご紹介します。




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演劇研究家・河竹登志夫(1924-2013)、登志夫の父・河竹繁俊(1889-1967)、曽祖父の河竹黙阿弥(1816-1893)     江戸から平成に続いた河竹家三人を紹介するサイトです。(http//www.kawatake.online) (※登志夫の著作権は、日本文藝家協会に全面委託しています。写真・画像等の無断転載はご遠慮願います。)