「酒は道づれ」から/真いわしの薄衣油焼き

昭和58年10月31日発行のこの本、登志夫58歳の時の随筆集です。随筆集としては、昭和55年発行の「幕間のひととき」に続く2冊目です。

読売新聞、サンケイ新聞、東京新聞そのほか雑誌などに連載した自伝や食べ物のこと、小学生の子供二人を連れてのウィーン三人暮らしのことなどを収録したエッセイ集です。

50代後半から、食べ物や酒のこと、包丁研ぎなど趣味にまつわるエッセイの新聞、雑誌、講演などの依頼が大変多くなります。本人は、本業以外のことは気楽に書いたりしゃべったりできたので、楽しめる仕事でした。

さて、レシピをひとつご紹介します。以下、「酒は道づれ」からの引用です。

「(略)“早い・うまい・安い”というウタイ文句をよくきくが、安いといえばいわしなど横綱格だ。普通の真いわしが豪快でいいのだが、あいにくきょうはしこいわしみたいな、十二、三センチのしかなかった。このへんでははまちの餌にするのだとか。

 だが、みると活きはとびきりいい。そこが逗子に住むよさだ。“じゃあひと口いわしでいこう”と、とっさに決めた。臨機応変というと大げさだが、要するに、有りしたがいの即席惣菜である。

 しこと同様に指先でひらいたものの、やっぱり仕上げにはせめて小出刃なりと光るやつを使いたくなるのが私の病。もっともその方が、上りもきれいにいく。

 酒と醤油にニンニクとショウガをおろしてまぜ、ひらいたいわしを十五分ほど漬けてから、小麦粉(かたくり粉でもいい)をピタピタとまぶし、サラダ油にゴマ油を少し加えて、中火で揚げるともなく焼く。天ぷらやフライより、オイル焼きの感じ。油は二種類をまぜたほうがなぜか味がいい。

 焼けたら大根おろしをのせて食べる。それだけ。コツは焼きすぎないこと、おろしは絞りすぎずおもいきりたっぷりで、焼き立ておろしたてに限ること。いわしにはおろしが合ううえ、熱さと冷たさの同居が、ちょっとオツな味を生む。」

これ、とても美味しかった思い出があります。いわしの美味しい季節におすすめレシピです。

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演劇研究家・河竹登志夫(1924-2013)、登志夫の父・河竹繁俊(1889-1967)、曽祖父の河竹黙阿弥(1816-1893)     江戸から平成に続いた河竹家三人を紹介するサイトです。(http//www.kawatake.online) (※登志夫の著作権は、日本文藝家協会に全面委託しています。写真・画像等の無断転載はご遠慮願います。)