2月の黙阿弥作品 大ちゃん、がんばったね/「三人吉三」 「船弁慶」

歌舞伎座の2月も黙阿弥2本。第一部で、「三人吉三」第二部に「船弁慶」が出ました。あっという間にもう3月になってしまいましたが…。
中村富十郎13回忌追善で、ロビーには大きな写真と生花が供えられていました。
富十郎さんが亡くなった2011年、登志夫が「演劇界」の連載で追悼しています(「かぶき曼陀羅」に収録。2016年演劇出版社刊)。
亡くなる8年前の30回古典芸能鑑賞会(NHKホール)のプログラムには、4歳だった大ちゃんのことも書いています。
この日、初代富十郎が250年前に初演した「京鹿子娘道成寺」を富十郎さんが踊りました。「4歳になる長男大が20歳になる時6代目富十郎を襲名させたいと考えております。その時私は90歳ですが代々ゆかりの『京鹿子娘道成寺』を大が踊るのをみるのが私の夢なんです。」と語っています。登志夫も元気な富十郎さんのことだから70歳違いの親子の「二人道成寺」が見られるかもしれないと書いています。
この夢は、永久に叶えられることがなくなってしまいましたが、いつの日か大ちゃんがご自分のお子さんと「二人道成寺」を踊る日が来るかもしれません。私の生きているうちに見たいものです。
2月の「船弁慶」の大ちやん(中村鷹之資)は素晴らしかったです。前半の静御前は凛として美しく、最愛の人と別れる悲しみが、若い身体を通して慎み深く舞われ、だからこそ観客は思いっきり身につまされます。
後半の平知盛の霊は時々富十郎さんの顔に見えました。「平家物語」で「見るべきほどの事は見つ」と自らの体に錨を巻きつけて海に飛び込んで命を断った知盛。知性の人ながら怨讐の業に負けて幽霊になって義経を襲う知盛。若い鋭い振り付けがぴったりで、ひっこみの六法は知盛自身と業の戦いのような精神性が見えて感動しました。
長唄お囃子連中がものすごい熱気で早い拍子で追い込みます。私の後ろの席の詩人のスペイン人の3人家族は、先ず長唄のリズムと迫力の凄さに感動、鷹之資さんの踊りにブラボー、日本はすごいと叫んでいました。私は嬉しくて、思わず握手をしました。
若い役者さんがわき目も振らず、一生懸命演ずる姿は私は大好きです。その上に芸も既に備わっていて、頼もしい限りです。大ちゃん、がんばったねと、見守っている富十郎さんも登志夫も喜んでいることでしょう。13回忌が早いような長いような。
大ちゃんのおばあさんの吾妻徳穂さんのことも書きたいのですが、次の機会に。 (良)


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演劇研究家・河竹登志夫(1924-2013)、登志夫の父・河竹繁俊(1889-1967)、曽祖父の河竹黙阿弥(1816-1893)     江戸から平成に続いた河竹家三人を紹介するサイトです。(http//www.kawatake.online) (※登志夫の著作権は、日本文藝家協会に全面委託しています。写真・画像等の無断転載はご遠慮願います。)